一編の詩(のようなもの)~美穂の家文庫②~
一編の詩(のようなもの)~美穂の家文庫②~

〈明日の目標〉

困るねぇ。

今日の延長。

お天気であるように。

もう目の前が真っ暗、

それじゃぁだめでしょう?

 

 

なかなか味わい深い文字列だと思いませんか?(声に出して読んでみると、なぜか胸にグッとくるものがあります)



 

 

これは、あるご利用者様が書いたもの、ではなく、その方の言葉を職員がそのままの形で文字にしてみたものです。

といっても、この言葉がスラスラと話されたわけではありません。



 

10月の制作物である「本」(「美穂の家文庫」)に何を書いてもらおうと考えたとき、「明日の目標」なんてどうだろうと思い、ご利用者様(Sさん)に尋ねてみました。

職員:「Sさん、明日の目標は?」

Sさん:「(そんなこと聞かれても)困るねぇ……」。

職員:「ですよね……」。

Sさん:「(明日も)今日の延長。お天気であるように。もう目の前が真っ暗。(でも)それじゃあだめでしょう?」

と、だいたいこのようなちぐはぐなやり取りだったわけですが、試しにSさんの発言をそのまま、言葉通りの文字にしてみました。

すると、件の一編の詩(のようなもの)ができたわけです。



 

「明日の目標は?」なんて聞かれても、絵になる答えはそうそう出てきませんよね。

ですが、言いよどみや口ごもり(「……」)も込みでその方の言葉を文字にしてみると、ずいぶん味わいのある「目標」ができあがりました。

Sさんの私的な言葉が詩的な言葉(文字)になりました。



 

ご利用者様の言葉を聞き、それをそのままの形で文字にすること。

介護の「介」は媒介の「介」だという話を聞いたことがあります。

介護職員として、ご利用者様の言葉と文字の媒介になれたらいいと思います。

簡単なようで難しいようで簡単なようで難しいようで……。



 

最後に引用を一つ(「美穂の家文庫」はこの本から着想を得てできました)。

 

 

(……)実は、この語られた言葉を聞き、書きとめるというのは意外に技術を要するものである。

というのも、話のプロでない限り、語りは論理的には進んでいかない。

話の内容が突然変わることもしばしばあるし、書きとめているあいだに急展開することもある。

(……)言葉の裏にある見えない「気持ち」を「察する」のではなく、相手の言葉そのものを聞き逃さずに、書きとめることに徹する。

それによって相手の生活や文化を理解するという民俗学における聞き書きの手法が、介護の現場においても、(……)有効ではないだろうか。
(六車由実『驚きの介護民俗学』医学書院、2012年、98~99ページ)

 

今回の文章は美穂の家沓谷、田邉が書きました。

 

 

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